






公式サイト投票、公式ツイッター応援投票、店頭投票の結果と、皆さまから寄せられたコメントを紹介します!
総合得票数によるランキングを19 位から順に発表!
プロムキングまたはプロムクイーンに選ばれたキャラクターの描き下ろしイラストを公開!
「1時間125ドルで、最低6時間以上ってことは……」
リビングで雑誌を広げながら、テウタは眉間にしわを寄せた。
「750ドル」
テウタの暗算よりも早くシュウが呟いた。
「えっ!? うっそ、私のアパートの家賃より高い……プロムってこんなにお金かかるんだね」
何の話かと、少し首を伸ばしてテウタの手元の雑誌を覗き込むと、それは高校生のプロムの特集だった。プロムのための貸衣装やリムジンのレンタル……最近の高校生は金がかかるらしい。いや、俺の時も似たようなものだったか。
「テウタは高校の時プロム行かなかったの?」
スケアクロウがスナックバーを頬張りながら聞くと、テウタは斜め上を見上げた。左上を見上げるのは過去を思い出そうとしてる時、右上は嘘を吐こうとしてる時……そんなことを聞いたことがある。
「私はプロム行かなかったな。アダムの卒業前のプロムに誘ってもらったけど行けなかったし、私とルカの時は友達何人かで地元のダイナー貸し切ってアンチプロムやったんだ」
「アンチプロム? なんだそりゃ?」
「プロム反対って感じのパーティだよ。まあ、別に私は反対ってほどじゃなかったけどさ。ていうか、みんなは?」
テウタの問いに、全員が一斉に左上を見上げた。
「学校なんか行ったことねえな」
「僕も普通の高校生活なんて経験ありませんね」
「俺はホームスクーリングだったし」
「僕は興味がなかったから」
申し合わせたように全員が順に答えると、今度は一斉に俺の顔を見た。
「……え? 俺?」
テウタは身を乗り出して、マイクでも持ったような仕草で俺に拳を向けた。
「リンボ、絶対人気だったでしょ!」
テウタの真似をするかのようにクロも同じポーズで俺に拳を向ける。
「モテてなかったわけがない!」
「そ……」
「『そんなことない』とかなんとか、誤魔化すのはむしろ嫌味なんでやめてくださいよ?」
まさに『そんなことない』と言おうとしたのを、ヘルベチカに遮られた。本人は携帯をいじりながら、こちらを伺うようにちらりと視線を寄越した。
「な、なんなんだよ、お前ら……」
大きく息を吐いて、ソファにもたれかかる。助けを求めるようにシュウを見たが、にやついた顔でほんの少し眉を動かしただけだった。視線を戻すと、テウタとクロがさらに拳を近づけてくる。
「で? どうだったの?」
ふと、左上の方を見上げる。近いようで遠い、学生時代の記憶。
「なんていうか、プロムキングになったことはあるけど……」
「ほらー! やっぱり!」
テウタとクロは顔を見合わせて頷いている。この後は間違いなく根掘り葉掘り質問が飛んでくることだろう。会話に入ってきていないモズに視線をやると、首を傾げて返事を促されてしまう。どうやら、助けてくれる人間はいなさそうだ。
「で? 誘ったんですか? それとも誘われたんですか?」
「え?」
ヘルベチカは携帯から目を離した。その口元にはふと意地の悪い笑みが浮かぶ。
「プロムに行くのにリンボが誘ったのか、リンボが誘われたのか、気になりません?」
「気になるー!」
「気になる気になる!」
「僕も」
「諦めろリンボ、ここは民主主義の国だ」
シュウはわざとらしく肩をすくめた。
「それ聞いてどうすんだよ、ったく……」
観念して話し出そうと小さく息を吐くと、それを制止するように手を掲げながらテウタが立ち上がった。
「あー待って待って! 賭けしよ! 私、リンボが誘われた方に1ドル!」
「俺5ドル!」
「僕は10ドル」
「20ドル、かな」
「100ドル」
テーブルの上にはくしゃくしゃの札が重ねられていく。
「お前らな……」
「これじゃあ賭けになりませんね。で? 答えは?」
また、無意識に左上を見上げてしまう。その仕草を気づかれたくなくて視線を戻すと、テウタとクロは期待に満ちた目で俺を見ていた。まるで子どもだ。
「……誘われたんだよ」
「ほらー! やっぱりー! え、誘ってきたのって1人? それとも複数?」
「え? それは……」
「あ! 照れた! これ絶対複数だろ!」
「お前ら、人をからかうのもいい加減にしろよ」
俺の言葉にテウタはニヤリと笑った。まだ攻撃の手は緩めない、そんな意思表示にさえ見える。
「もう、ドラマで見るようなモテ男じゃん。あっ! もしかしてアメフト部のキャプテンでクォーターバックだったりしない!?」
「俺はバスケ部だって。……キャプテンはやってたけど」
ほら、と笑い合うテウタ達を見て、シュウは小さく笑い声を立てた。
「モテ男ビンゴあったらもう優勝してるな」
右にも左にも、味方はいなさそうだった。次は何を聞かれるだろうか……また左上を見上げる。
(学生時代、か……)
楽しいことがたくさんあった。忘れられないような辛いこともあった。でも、楽しかった。学校という小さな世界で、色んなことがあった。あの頃も、こんな風に楽しそうな笑い声を聞いていた気がする。
「何ニヤニヤしてんだ? プロムに誘ってきた女のことでも思い出したか?」
シュウが肘で小突く。
「あ、いや、俺の学生時代にお前達がいたらどうかなってちょっと想像したら、おかしくて……」
そう言いながら笑いがこみ上げてきて、言葉が続かなくなる。その笑い声に気づいたクロが訝しげに俺を睨んだ。
「おかしいって、どういうこと?」
「このまんまだろうなって」
「どういう意味です?」
ふと、目を逸らして右上を見上げる。
「どういう意味も何も、そのまんまだろ?」
「あ! 分かった! 俺達がガキっぽいってことだろ!? 罰金だ、罰金!」
「そうだそうだ!」
テウタとクロは二人でカウンターにある罰金の瓶を取りに走った。
ーーー学生時代のあの小さな世界にみんながいたら……本当のところは想像もつかない。同じクラスだったら友達になっただろうか? 同じクラブだったら? テストだ、パーティだ、プロムだと笑い合っただろうか? 俺達はきっかけがあって出会った。何かが起こって、何かが起こらなくて、今はこうして同じ場所にいる。それが、今なんだ。
小さな笑い声の方を見ると、モズだった。その顔は、俺の頭の中を見透かして笑っているようにも見える。
「な?」
モズは満足そうに目を閉じて微笑んだ。
「そうだね」