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    [ハルト]「耳障りだ。私語は慎め」

    [リート]「ご、ごめんなさい」

    [アルシェ]「いいじゃん、ハルト。 そんな堅苦しい挨拶なんかしなくたって。
    彼女、怖がっちゃってるよー。ねぇ?」

    アルシェさんは華のような笑顔で、私の前へ。
    そして、お辞儀をするような姿勢で私の手を取る。

    [アルシェ]「こんにちは、可愛らしいお嬢さん」

    まるで貴族かお姫様になったかのような扱いに、照れくささを隠せない。
    顔が熱くなっているのが自分でもわかる。

    [アルシェ]「俺──君とは、初めましてじゃないよね」

    [リート]「え……は、はい。 あの、この間の公演で……」

    [アルシェ]「ああ、やっぱり。 入口で白いエリカの花束をくれた子だよね。
    覚えてるよ」

    [アルシェ]「名前は、確か、キャサリン」

    [リート]「……リート、です」

    [アルシェ]「あはは、あれ。そうだっけ。 まぁいいか。
    これから、もっと仲良くなろうね」

    [アルシェ]「白いエリカの花言葉は『幸せな愛を』」

    [リート]「……」

    アルシェさんはそういって、ごく自然に手の甲へキスをした 。

    一瞬何が起こったかわからなかったけれど、
    状況を理解すると、恥ずかしさで顔がさらに熱くなるのを感じた。

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    [ハルト]「──おい」

    [ハルト]「今、オルガンを弾いていたのは──
    お前だな」

    ハルトさんが厳しい眼差しを私に向ける。
    綺麗な瞳だけれど……
    にらみつけるような目線は冷たく、
    怖い、と感じてしまう。

    [リート]「は、はいっ。
    はじめまして、私──」

    挨拶の握手をするつもりで手を差し出しても、
    ハルトさんは見向きもしない。

    [ハルト]「酷く醜い音だった」

    [リート]「──」

    [ペーター]「なッ……」

    みんなが不安そうな顔をしてハルトさんと私を
    見つめていた。

    言い返したいのに、
    何を言っていいのか分からない。

    確かに私の演奏はつたない。
    それは自分でもわかっている。

    だからこそ、
    ハルトさんの言葉は私の胸をえぐった

    [ハルト]「久し振りに、最低な演奏を聞いた」

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    [クラヴィア]「よかった。
    今日は音が控えめだったので、
    心配していたんですよ」

    [リート]「え?
    音って……私の、ですか?」

    [クラヴィア]「ええ、いつもでしたら、
    ものすごい派手な音を立てて、
    ドアを開けて、やって来て……」

    [クラヴィア]「弾んだ足音に飛び交う笑い声、
    そして壮絶なボケツッコミの嵐が大音量で……」

    [リート]「す、すみません、
    うるさくしてしまって……」

    [クラヴィア]「いいえ、私は、
    ここであなたの音を聞くのが楽しみなんです。
    足音、笑い声……それから」

    [クラヴィア]「日替わりの鼻歌もね」

    クラヴィアさんの微笑みは、
    いつものように優しく穏やかだ。

    彼の声を聞くと
    気持ちが柔らかく解けていく気がする。

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    [ディー]「だーから俺は関係者じゃねーっつの。
    まとわりつくな!」

    [ペーター]「おい、クララ……いい加減にしとけって。
    ねーちゃんの前に警備員が飛んでくるぞ」

    [クララ]「だって私見たんだもん、
    この人が劇場の楽屋口から入ろうとするところ!」

    [クララ]「 関係者のクセに客を無視するなんて、
    ひどいじゃない?」

    [クララ]「ハルト様ほどの素晴らしい才能を持っている御方
    ならともかくさー」

    [ペーター]「だからっ
    この人も演奏家の一人かもしれないだろ?」

    [クララ]「ノー。絶対、ありえないわ。
    見たことないし、知らないし」

    [クララ]「そもそもオーラを感じないもの」

    その言葉で何かスイッチが入ったのか、
    青筋を立てながら、彼はにっこりと笑う。

    [ディー]「……ふ。 よーし」

    [ディー]「歯ぁ食い縛れメスガキ!
    オーラどころか五感の全てを感じないように
    してやらぁ! ぁあん!?」

    [ペーター]「怖! つーか大人気な!
    絶対楽団の関係者じゃないよこの人!?」

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    [ハルト]「楽器に触れても、音は応えない。
    コンダクターとして指揮棒を振るっても、俺には……何も……」

    [ハルト]「何も、産みだせない」

    [リート]「そ、そんなこと、ありませんッッッ!」

    [ハルト]「……」

    [リート]「ハ……ハルトさんは、ハルトさんだから、
    みんな、信頼して、
    自分の音を預けているんです……!」

    [リート]「わ、私は音楽のことは何もわからないけど、
    でも……」

    [リート]「これだけは、分かります。
    音楽が、人を拒絶するなんてことない!」

    [ハルト]「リート……」

    [ハルト]「うるさい。声が大きいぞ。
    子供達が、起きる」

    [リート]「あ、ご、ごめんなさい……」

    [リート]「でも──」

    [ハルト]「……俺は、音楽に嫌われてもいい。
    演奏が出来なくても、やるべきことはある」

    [ハルト]「……俺が……」

    [ハルト]「──誰よりも音楽を愛していれば、それでいい」

    [リート]「……」

    [リート]「……ハルトさん……」

    [リート]「あの、もう一度、弾いてもらえませんか」

    [ハルト]「?」

    [リート]「私、聞きたいんです」

    [ハルト]「……」

    ハルトさんは戸惑いながらも、
    ゆっくりとオルガンに手を伸ばす。

    そして、そっと鍵盤に指をおく。

    やはり音は出ない。

    私はそれでもよかった。

    [リート]「もう一度」

    [ハルト]「……」

    [リート]「お願いします」

    ハルトさんは演奏を続ける。
    オルガンから音は聞こえてこない。

    私はそれでも、
    ハルトさんの演奏を聞き続ける。

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    [ハルト]「リート」

    突然、ハルトさんが私を抱きしめる。

    あまりに突然過ぎて、頭がパニックになりかける。
    ハルトさんらしくないような。

    [ハルト]「……公演は、必ず、成功させる」

    [ハルト]「これから、何が、起ころうとも……」

    ハルトさんが言葉を切る。
    声音は苦しげで、痛々しかった。

    今まで笑っていたのに、楽しそうだったのに、
    どうしてそんな声で……?

    [リート]「ハルトさん、だいじょ……」

    私の言葉をさえぎるように、ギュッと強く、
    強く抱きしめられる。

    [リート](ハルトさん……震えている……?)

    私はハルトさんの背中に手を回した。
    そしてゆっくり、優しく撫でる。

    [リート](ハルトさん……私がついてますから……。
    大丈夫ですよ……)

    少しでもハルトさんが苦しくなくなるように。

    [ハルト]「……」

    しばらくそうしていると、ハルトさんの震えが
    やっと治まった。

    [リート]「大丈夫ですか?」

    [ハルト]「ああ」

    ハルトさんの手が緩まる。

    私から身体を離す時、私の頬にかすかに
    唇が触れる。

    [リート]「ひゃっ」

    驚いて変な声が出た。
    ハルトさんがクスリと笑う。

    でもすぐに真剣な表情で私の顔を覗き込む。

    [ハルト]「何があっても、俺を信じてくれ……リート」

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    [ハルト]「だから、ずっと……お前のことばかり、
    考えていた」

    [リート]「……」

    [ハルト]「だが……
    ……
    ……もう、やめた」

    [リート]「え。や、やめちゃったんですか?」

    [ハルト]「ああ。
    二度と考えないことにする」

    [リート]「あ、や、やっぱり嫌われちゃってる……」

    [ハルト]「俺は、お前に嫌われてもいい」

    [リート]「え──」

    [ハルト]「……俺が……」

    [ハルト]「──誰よりもお前を愛していれば、それでいい」

    [リート]「……っ!」

    この言葉は……。

    [リート]「ハルト、さん……」

    [リート]「あ、あの。
    でも、それだと、
    私と同じになっちゃいませんか?」

    [リート]「私も、その、ハルトさんに、
    片思い……しているんです」

    [ハルト]「ああ、そうだったな」

    [リート]「私は、振られたと思っているんですけど。
    でも、今の話は、つまり、あれ……?」

    [ハルト]「だから、俺は、お前の気持ちは、
    もうどうでもいいと言っている」

    [ハルト]「俺が、お前のことを、好きなんだ」

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    [リート]「……本当に、ごめんなさい」

    アルシェさんに、頭を下げる。

    [アルシェ]「何が?」

    [リート]「私のせいで、
    たくさん……ご迷惑をおかけしてしまって」

    [リート]「一歩間違えれば、皆さんの音も……
    消えてしまうかもしれなかった……」

    [アルシェ]「……じゃあ、まさかとは思うけど、
    その時の、罪滅ぼしを、
    こんなことでしているつもり?」

    [リート]「あ……」

    たじろぐ私を見て、
    アルシェさんが大きなため息をつく。

    [アルシェ]「はぁ……」

    呆れたような様子に、
    思わず居住まいを正す。

    何か気に障ってしまっただろうか。

    [アルシェ]「なっちゃんさ」

    [リート]「──」

    [リート](怒られる……ッ!)

    そう思って、思わず目を閉じてしまった。

    [アルシェ]「じいしきかじょーすぎ」

    [リート]「きゃ」

    予想外の言葉と共に、
    鼻の頭をちょん、と押された。

    思わず、小さな悲鳴が漏れる。

    [アルシェ]「なっちゃんは
    舞台に上がりたくても上がれない子なんだから」

    [アルシェ]「そんな、悲劇のヒロインみたいなこと
    言わなくていーの」

    [アルシェ]「全然似合ってないよ?」

    [リート]「……」

    [リート](言い方は悪いけど、もしかして……
    励まそうとしてくれてる、のかな?)

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    アルシェさんの瞳をじっと見つめる。
    澄んだ緑色の瞳が、微かに揺れた気がした。

    [アルシェ]「ここにいたって……期待していることなんか、
    何ひとつ起こらないよ」

    [アルシェ]「俺、君のこと、別に好きじゃないもん」

    [リート]「はい」

    [アルシェ]「ってゆーか、ハッキリ言ってすっごい迷惑」

    [リート]「はい」

    [アルシェ]「出てけよ」

    [リート]「いやです」

    アルシェさんから告げられるのは、明確な拒絶。
    それでも、私はひくつもりはなかった。
    互いの目を見つめ合ったまま、しばしの沈黙が流れる

    [アルシェ]「……
    ……
    ……変態」

    ため息交じりにそう呟くと、アルシェさんは立ち上がり、私の両手を乱暴に掴んだ。

    [リート]「ッ」

    [アルシェ]「じゃあなに、
    ハルトがなっちゃんに教えたダンスの責任は、
    俺が取らなきゃいけないの?」

    [アルシェ]「……勘弁してよ」

    強い力で抱き寄せられた。
    顔も体も触れてしまうほど近く、
    一気に心音が激しさを増す。

    戸惑う私をよそに、
    強引にステップを踏み始める。

    八つ当たりのように激しいステップに、
    私はただ振り回されるだけだ。

    アルシェさんと踊ろうと思って、
    必死に覚えたステップ。

    なんとかついていこうと、必死で体を動かした。

    [アルシェ]「上手だね」

    [リート]「……」

    [アルシェ]「俺の為に、頑張ってくれたんだ。
    でも──」

    アルシェさんは急にステップを止めると、
    両手で強く私を抱きしめる。
    ふわりと微かに甘い香りが舞った。

    [アルシェ]「俺は心が無いから、誰も好きにならないし、
    誰がいなくなったって、
    何にも感じない」

    [アルシェ]「『ここ』から
    動けない」

    [リート]「……え」

    [アルシェ]「おとぎ話に出て来る王子様、みたいでしょ?」

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    [リート]「でも、アルシェさん……
    本当に良かったんですか?」

    [アルシェ]「なにが?」

    [アルシェ]「演奏は何処でも出来るけど、
    リートはここにしかいないでしょ」

    [リート]「え」

    唐突に、
    アルシェさんの唇が、私の唇に触れた。

    あまりに突然のことで、
    数秒間、私の思考回路は完全にフリーズする。

    [リート]「えぇぇぇぇぇっ!?」

    状況を把握してから、
    慌ててアルシェさんから離れようとする。

    [アルシェ]「ダメ、死んでも離してあげない」

    [リート]「あ、アルシェさん──」

    [アルシェ]「俺、誰のことも、好きにならないから」

    [アルシェ]「浮気とかいっぱいしちゃうけど」

    [アルシェ]「それでもいい?」

    [リート]「え──、い……」

    [リート]「嫌です」

    [アルシェ]「え」

    [リート]「だ、だって……浮気されたら、嫌です」

    [アルシェ]「いや、今のは、
    だから、冗談──でもないけど」

    [リート]「ま、またそうやって私のこと、からかって!
    私、アルシェさん──苦手です!」

    [リート]「か、か、帰りますッッッ!」

    [アルシェ]「ちょ、ちょっ──ちょっと待ってよ、
    リートッッッ!?」

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    目を覚ました私は、
    ベッドの中で大きなあくびをした。

    ぼんやりと辺りを見渡すと、
    ソプラノの姿が見えないことに気づく。

    [リート]「あれ、ソプラノ?」

    いや、それよりも、
    見慣れない景色に、徐々に眠気が覚めていく。

    [リート]「っていうか、ここ──私の部屋じゃな──」

    ハッとして隣を見ると、誰かが寝ている。

    すやすやと気持ち良さそうに
    寝息を立てているのは——

    [ヴィッセ]「……すぅ……」

    [リート]「なんッッッ──」

    ヴィッセの姿に、大声を上げそうになる。
    口を押さえてなんとかこらえると、
    ヴィッセが身じろぎをした。

    [ヴィッセ]「ん……」

    白いシーツの上に広がったヴィッセの髪が、
    彼の寝息で小さく揺れた。

    ぴくりと動く長いまつげに、
    ドキドキとしながら息を潜める。

    [ヴィッセ]「すぅ……」

    ヴィッセが起きないのを確認すると、
    ほっと肩の力を抜いた。

    [リート]「そっか、私……
    昨日、あのまま寝ちゃったんだ……」

    時計を見るとすっかり朝。
    どうやら、一晩寝てしまっていたらしい。

    [リート]「新しい年、かぁ……」

    [リート]「今年もよろしくね。
    ヴィッセ……」

    ヴィッセの頭を撫でようと手を伸ばす。
    なんて綺麗な寝顔だろう。

    もし天使がいるとしたら、こんな顔を
    しているんじゃないだろうか。

    白い肌に、指が触れる寸前——

    [リート]「……じゃなくて!
    お、起きなきゃっ!
    私、何やってるんだろう」

    慌てて手を引くと、
    立ち上がるため身を起こそうとする。
    けれど……。

    [リート]「……う、動けない……」

    ヴィッセにしっかりと抱きしめられていて、
    身動きがとれなかった。

    [リート]「……」

    [リート]「あったかい……」

    もぞもぞと布団に潜り込み、
    そっとヴィッセの身体に手を回してみる。

    [リート]「ヴィッセって、意外と体温高いんだな……」

    [リート]「……もうちょっとだけ……」

    心地よい誘惑にかられ、私はもう一度目を閉じた。

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    [ヴィッセ]「っしょ……」

    おそるおそる木に登っていくヴィッセを、
    ハラハラとしながら見守った。

    赤ちゃんとその母親も、
    心配げにヴィッセを見上げている。

    [リート]「慌てず慎重にね、ヴィッセ
    落ちて怪我なんてしたら、ピアノが——」

    [ヴィッセ]「わかってる
    ——あ」

    こちらを向いた瞬間、
    細い枝がヴィッセの頬を掠めた。
    ヴィッセの頬に薄く赤い筋が入った。

    [リート]「ヴィッセ──」

    [ヴィッセ]「……大丈夫。 もう、ちょっ、と──」

    枝に身を乗り出すようにして、
    ヴィッセが風船に手を伸ばす。

    もう少しで手が届くところで——

    パトカーのサイレンが響いた。
    その音に驚いたヴィッセの身体がビクッと揺れた。

    [リート]「あ……ッ」

    風によって傾いた風船は、
    枝に刺さってあっけなく割れてしまった。

    [ヴィッセ]「あ──」

    [赤ん坊]「あ……
    ぅ、わあああああああああああんッッッ!」

    呆然とするヴィッセの眼下で、
    赤ちゃんが大きな泣き声を上げる。

    [ヴィッセ]「あ、ご、ごめ……」

    慌てて謝ろうとするヴィッセだが、
    泣き声に遮られて赤ちゃんには届いていない。

    [母親]「あの……ありがとうございます。
    お気持ちだけで、充分ですので……」

    母親は、私と木の上のヴィッセに頭を下げると、
    赤ちゃんを乳母車に乗せて去っていく。

    [母親]「よしよし。
    おうちに帰って、おやつ食べようねぇ」

    [母親]「その前に手を洗おうねぇ。
    ぱしゃぱしゃねー」

    [赤ん坊]「あううー」

    赤ちゃんは最後まで、悲しそうな声を上げていた。

    [ヴィッセ]「……」

    [リート]「……」

    哀し気な瞳で親子を見送るヴィッセに、
    何も声をかけられず、
    私はただ木を見上げる。

    [ヴィッセ]「……」

    [ヴィッセ]「……って言うか、これ、
    ……どうやって、降りればいいんだろう……」

    [リート]「え」

    [ヴィッセ]「ど、どうしよう俺……」

    [ヴィッセ]「このままじゃ……!」

    急に慌て出すヴィッセに、
    私までわたわたしてしまう。

    [リート]「ヴィ、ヴィッセ、とにかく、落ち着いて!」

    [ヴィッセ]「う、うん。」

    [ヴィッセ]「……すぅ。
    ……はぁ」

    ヴィッセは深呼吸すると、
    何かを決意したように、頷いた。

    [ヴィッセ]「よし。
    一生をここで、過ごすよ」

    [リート]「落ち着いちゃダメーーー!」

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    [ヴィッセ]「……ぷ。あははははっ」

    [リート]「ヴィッセ……?」

    [ヴィッセ]「だって、鼻、赤くなってる」

    [リート]「え、う、嘘ッ!?」

    そう言われて、私は思わず鼻の頭を隠した。

    [ヴィッセ]「そんなことしたって意味ないよ」

    [ヴィッセ]「俺よりリートの方が手当、必要かも」

    [リート]「へ、平気だもん……」

    [ヴィッセ]「……真っ赤だよ」

    [リート]「平気なのっ」

    [ヴィッセ]「本当に?
    痛く、ない?」

    ヴィッセが私の顔に手を伸ばす。
    その指先は、赤くなった鼻先ではなく髪に触れる。

    [ヴィッセ]「あ……髪、さらさら、ふわふわ。
    気持ちいいね」

    [ヴィッセ]「もう少し、触っていても、いい?」

    ヴィッセの指先で髪をもてあそばれ、
    すごく照れくさい気持ちなってしまう。

    良く考えると、この体勢は……。
    体が密着していて、目の前にヴィッセの顔がある。

    それを意識してしまってから、
    顔は熱くなる一方だった。

    [ヴィッセ]「……よしよし」

    [リート]「ヴィ、ヴィッセ、怪我したの鼻だよ。
    髪じゃ、ないよ」

    [ヴィッセ]「いいこだねー」

    [リート](う、なんだかすごく恥ずかしい。
    とにかく、髪から手を放してもらおう)

    ヴィッセの手を払おうとすると……。

    [ヴィッセ]「あはは、やっと鼻から手を放した。
    隠しちゃうんだもん。
    引っかかったー」

    [リート]「……え」

    そういって、
    ヴィッセは私の鼻をまじまじと見つめる。

    [ヴィッセ]「ん……ちょっと、赤くなっているけど、
    大丈夫そう。
    大したこと無くてよかった」

    [ヴィッセ]「でもほら、よかったじゃん。
    鼻が一番高いってことが、分かって」

    [リート]「ぜ、全然よくないよ!
    ヴィッセの意地悪!」

    [ヴィッセ]「じゃあ、トナカイみたいな赤鼻を記念して、
    一枚」

    [リート]「と、撮っちゃダメだってばー!」

    真っ赤な鼻の記念写真を残したくないので、
    再び手で顔を隠そうとした。

    [ヴィッセ]「ダメ。隠したら」

    [リート]「……」

    [ヴィッセ]「ダメ」

    [リート]「……もう……」

    本当は顔を隠したかったけれど、
    ヴィッセにそんな顔をされたら、もう……。

    ヴィッセは優しく微笑んでいる。
    私も気を取り直して、ヴィッセに笑った。

    [リート]「ね。ヴィッセ。
    みんな、すごく楽しそうだったね」

    [ヴィッセ]「え」

    [リート]「私も楽しい。
    みんなとこたつに入ったり、お絵かきしたり」

    [ヴィッセ]「楽しい……」

    [ヴィッセ]「……そっか」

    私がヴィッセに微笑むと、
    ヴィッセも笑って……、
    穏やかな時間に目を細める。

    大事な思い出を取りこぼさないように、
    私達は写真を撮った。

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    ヴィッセの話を聞いていると、
    気付かない内に私の目から、大粒の涙が零れていた。

    [ヴィッセ]「……リート?」

    [リート]「ごめんなさい……
    でも、そんなの……悲しいよ」

    [リート]「だって、ヴィッセは、何も──」

    [ヴィッセ]「君は……優しいね」

    ヴィッセは私の頬を伝う涙を指で優しく拭う。
    そして、その指は頬、首筋へ。

    ヴィッセは、優しくなだめるように、
    私の頬や首をなでてくれた。

    ヴィッセに触れられた部分だけ、
    やけに熱く感じる。

    [リート]「ヴィ、ヴィッセ……」

    [ヴィッセ]「ん?」

    [リート]「あの、……
    なんか、これだと……」

    [ヴィッセ]「……ペットみたい?」

    [ヴィッセ]「ん、じゃあ、これで」

    ヴィッセは私を抱き寄せると、頭を撫でる。

    [ヴィッセ]「よしよし、いい子だね……」

    [リート]「ヴィッセ……」

    [ヴィッセ]「……いいんだよ……笑って」

    [リート]「……」

    [ヴィッセ]「君は、何にも、悪くないんだから……」

    [リート]「うん……」

    それはきっと、小さい頃ヴィッセ自身が
    お母さんに言って欲しかった言葉なのだろう。

    [リート]「ヴィッセ……」

    私はヴィッセをそっと、抱きしめる。
    暖かく包み込むように、そっと、優しく。

    [リート]「上手だよ……
    よく、出来ました」

    [ヴィッセ]「うん……」

※文章および画像は開発中のものです